2005/12/06

熱海の女

熱海の夜。
小ぢんまりとした、ちょい古の旅館。
地モノの魚をつつきながらささやかな晩餐。
お銚子を1本もあけると昼の疲れも手伝ってウトウト・・・

「ではごゆっくり」と言い残して去った女将。
斜陽とも言われる熱海で、孤軍奮闘、旅館を切り盛りする女将の
苦労は並大抵のものではないだろう。
配膳の際に交わした言葉の端々に<お願い、助けて!>の気持ちが
こもっていたような気がする。
「すまね~。何もしてやれね~が勘弁してくれ」心で語りかける。
「いいの。お会いできただけでうれしかった」潤んだ瞳がそう答える。

今宵の泊まり客は俺ひとり。
<来る!>
そんな予感に包まれながら目を閉じていると、
廊下の奥からヒタヒタと足音が近づいてきた。
<来たな!>
「女将! 今夜はなにもかも忘れようや」
「ええ! 初めて会った時からこうなるような気がしていたわ」
襖が開き女将が表れた。
「すいませ~ん。はい、栓抜き!」


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