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2013/08/26
藤圭子に惚れていた
10代の終わりから20代前半、ボクは新宿に通いつめていた。
三越裏あたりから末広亭界隈、歌舞伎町の裏路地を
ほっつき歩く生活を繰り返していた。
新宿はまるで謎めいた大人の女のようで、
知ることで夢中になり、夢中になって欲情し、
小僧のボクはその迷路をひたすら彷徨っていた。
「どう咲きゃいいのさ この私」
怒ったような顔をして藤圭子が歌っていた。
「女ですもの 恋をする」
一番街のコンパで、初めて飲んだジンフィズでひっくり返った。
目がうつろになったボクは店から追い出され、通りで吐いた。
「バカだな バカだな だまされちゃって」
騙されるのは客の方だよ、と、ブルームーンのA子が、
ボクの手を胸元に導きながら言った。
生まれて初めて買った邦楽のLPレコード。
今や、かけるプレーヤーもないのに、捨てられずにいる。
「こんな女でよかったら 命預けます」
久しぶりに取り出してみた。
「いい女だったな~」
胸が熱くなる。
新宿へはめったに行かなくなった。
つまらん街になった。
それにしても、此度はカッコイイ散り方をしてくれたものだ。
してやられた、という気分が拭えない。
参った。
「どこで生きても ひとり花
どこで生きても いつか散る」
そういうことか。
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